一部の介護施設では、高齢者の脳を活性化させ認知症の症状を緩和する方法として、音楽療法が導入されています。音楽療法により、高齢者の身体運動や言語の機能が向上したり、徘徊や暴力といった問題行動が鎮静化したりする事例も多く見られるのです。
しかし、音楽療法はどの高齢者にも良い影響を与えるとは限りません。場合によっては、高齢者を混乱させ不快な思いをさせることもあります。実は、認知症患者の中には、音の聴こえ方に問題が生じることもあるからです。
一般人には心地よく聴こえる音でも、認知症の高齢者には不快な不協和音に聴こえているケースが見られ、音楽療法を止めた高齢者もます。自閉症に罹患した高齢者にも、同様の傾向があると報告されています。
自閉症は、必要な音だけ抽出する機能が衰え、あらゆる雑音が同程度の音量で聴こえるため、日常生活でも耳を塞いでしまうことが少なくありません。また、高齢者に馴染みのない曲を聴かせると、気持ちが乗らず楽しめないこともあるでしょう。
したがって、音楽療法を行う前には、認知症患者の聴覚の特性について担当医師と相談する必要があります。そうした上で高齢者の嗜好や年齢層を考慮し、曲の選択を慎重に行わなければなりません。
元々音楽自体を好まない高齢者もいるので、個別アンケートの実施といった事前の確認が必要です。
介護職員のカンファレンスでも、音楽療法について学ぶ場を設けるほか、高齢者の聴覚や嗜好に関する情報を共有し、最適な音楽療法を施せるよう尽力しましょう。